おれはいつも、何かを始める時、新しいステップに進む時、今持っているものを総て、捨てることからはじめてきた。
理由は至極単純。この手がいっぱいになっていたら、新しいものを手に入れることなんて出来ないから。そう思っていたから。
思えば、おれの人生はそんなことの繰り返しだった。すでに持っているものを自分で投げ捨てて、それをまた拾い集める作業。大切な思い出を地中深く埋めて、それをまた掘り返す作業。捨てたら拾ってまた捨てて。埋めたら掘り出してまた埋めて。この手には何もない状態が良い。なにもないということの美しさ。それがおれのルールだった。
だから、自分の手に余る喜びで胸がいっぱいになるとき、その度に失踪を試みてきた。誰の記憶にも残らないほど、鮮やかに消えてしまいたいと。それが美しさだと。よくよく考えなくても、大事なひとたちの思いを馬鹿にしてる行為だけど、おれにとってはそれだけが正解だった。
なのに、今回ばかりはそれが立ち行かなくなった。
いままで、こんなに上手くいってたプランが通用しなくなった。失踪すれば、新しい気持ちを、さわやかなスタンスを、美しい心を取り戻せていたのに、どうにもならなかった。
戸惑い。どうしようもなくなったおれは、きみに何度も電話をかけた。彼は慰めるでもなく、寄り添うでもなく、とても優しくこう言った。
「新しいルールが要る」と。
ありがとう。少し時間がかかったけれど、おれはいま、そのルールと出会えたよ。
継続。
そう言えば、この人生でまだ確認したことがなかったな。おれは、何も捨てないままで、どれだけ歩いていけるかということを。
維持すること。在り続けること。大事にし続けること。いつも優しくいること。変化しないことを恐れないこと。
このカバンに、どれだけパンパンに大切なものを詰めていけるか。詰めたものの重みに耐えながら、どこまで進んでいけるか。それを確かめたい。そう決めた。
綺麗事だとしても、決めてしまったらそれが総て。
愛してるよ。
それは確かなんだ。
だから、続けるんだ。
南下する青年 / BBHF
https://youtu.be/P0w_ceeo6sc